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悪癖/矯正

 男同士のセックスは、男女のそれとは違って相手を打ち負かしたいという欲が多少なりと混ざってしまうのは仕方のないことだとは思う。
 逆に言うのなら柄でもなく、絶対的な強者として振る舞わなければならない日常の中で、自分を屈服させてくれる相手を探すことくらいある――と言えば、ルキーノは言葉もなくため息だけで呆れて見せるだろうが。
 マゾヒストかと言われれば違う。絶対に違うとまでは言わないが、まあとにかく。
「また考え事してるな」
 耳に唇が触れるほどの距離で言われれば、跳ねた背が粟立つ。
 俺の背中を抱いている男の手が、自分の腹を這っている。
「いつまで……」
 後ろで組まされた状態でベルトを巻かれた手で、自由になる指先で相手の脇腹をひっかくと、ペットに甘噛されたような声音でルキーノが笑う。
「あんたが、音を上げるまでだな」
 息が上がるのが隠しきれなかった。もう一度、笑うのが聞こえる。
 片膝を折った状態で座らされているせいで、身動ぎで逃げる事も出来ないのに、行き場のなかった右膝に腕が通されて持ち上げられる。
 屈辱的な格好をさせられているのに、外されていない眼鏡がもどかしい。自分のペニスが年甲斐もなく腹に貼り付きそうなほど立ち上がっているのが見せつけられている。
「ここ、パンパンになってんな」
 先走りを伸ばすように亀頭を指でなぞられ、たったそれだけで足先が跳ねた。
 イキたいか? とルキーノは易く聞いてきたりはしない。教師が黒板を指し示すように、俺のをゆっくりと扱いて、身体が跳ねるのをその背中で抱きとめるだけだ。
「ルキ……、っ」
 助けを求めるように呼びかければ、耳を唇で噛まれる。そのまま「どうした?」と呟かれると、じわと涙が浮いてきた。
 暴かれている。普段必死に閉じている内側を、素手でその内臓に触られるような感覚に、思考が白く焼き切れかける。
「まだ耐えろよ、なあ――」
 ぐいと腰を浮かされて、さっきから背中で存在を主張していたルキーノのペニスが尻にあてがわれる。そっちはベッドに上がる前に、散々バスルームで解されていて、息を飲んだ。先がつぷりと尻穴に沈んで、喉奥から無意識の悲鳴が出た。
 ゆっくりと腰を引き寄せられると、熱に背筋が串刺差しにされる感覚に喉を震わせるしかない。
 完全に腰を下ろさせられると、俺の首筋にルキーノのため息が掛かった。
「あんたは痛いほうが好みだなんて言うだろうが、こういうのも悪くないだろ?」
 いつもの軽口でそうかもな、なんて応える余裕はなかったし、ルキーノを見ようとすれば唇を重ねられた。粘膜を合わせるのはひどく気持ちいい。腰を揺すらずとも、腹の中でペニスが引きつけを起こすみたいに動くのが分かる。
 乱暴に扱われたい。このまま激しく突かれてイキたい――のに、イキたくない。
「足りないか?」
 見透かされた問い掛けにほとんど無意識に頷いた。
「素直だな――」
 挿れられたまま、またペニスを弄られてもう声は押し隠せなかった。ずり下がってきた眼鏡を律儀に直されて、達しかけたところで擽られ続けて涎を垂らしている自分のものから目をそらす事ができない。
 ねちっこい手管でペニスの括れをわざと引っ掛けるようにして嬲られると、締め付けてしまって挿入されたペニスの形も自覚させられる。
 自分では望めないかたちに、ルキーノに征服されていく。肩や首筋に貼りつく髪がうざったい。そこも、ルキーノに触れられたいのに。
「ッぁ、ア、……も、―っ!」
 こめかみにキスをされながら、決壊したペニスからルキーノの手のひらに吐精した。
「う゛ー……、…、っ」
 頭を振って、膝ががくつくほどの快楽に耐える。射精するというより、小便を漏らしているような感覚に、息さえ止まりそうになる。ルキーノの手をこぼれ、自分の腹を流れシーツを汚す自分のザマに震える。
「ハハ……もがれそうだ」
 余裕ぶった声が上ずるのに、俺は唇だけで笑ったのだと思う。ぐったりと重たくなった身体を預けたまま、懇願した。
「おまえのも、なかにくれよ――」
 不自由な身体で猫のように縋らずとも、自分の出した精液でべたべたになったルキーノの指をしゃぶらなくとも、かちりとスイッチの入る音が聞こえた気がした。多分、そういう意味で俺たちは相性が良かった。
 俺の腕を拘束しているベルトが一瞬引かれて身体が浮きかけたが、気づけばベッドに押し付けられるように倒されていた。
 ずるっとケツからペニスを引き抜かれる感触に意識が飛びかけて、叩きつけるように突っ込まれて、俺は今度こそ漏らした。
 ヤクをキメたら、こんなにもひとりで気持ちいいのかもしれない。廃人にもなるはずだ、と頭の変な冷静な部分が言う。
「ひ、ぐ――っ、ぐ、ぅ…ぎ」
 口を噛みしめても、不格好な嬌声が漏れるのがどうしようもない。比喩でもなく内臓をむちゃくちゃにされて、涎を垂らして悦んでいる。
 奥のほうを抉られるたびにイッている気さえした。半ば意識を失いかけながら、ルキーノが荒げた息を止めるのを聞いた。
「――あ、」
 どろっと腹の中に熱を持った液体を流される。
 出された瞬間より、まるで精液を奥に送り込むようにぬめったペニスをゆっくり抽送される方がキた。
 腹の奥から背骨を締め付けられるみたいな快楽に、舌を突き出して喘いだ。
 上から覆いかぶさったルキーノに首筋に噛みつかれながら、震えのまま意識を手放した。