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にゃー

※脈絡のない猫化ルキーノ

 酔った勢いと言うのは簡単だった。けれどせめて、胸の内で問わずにはいられなかった。
 どうしてこうなった。
「お前の目は、ピジョンブラッドをはめ込んだみたいだな」
 ベルナルドは俺の髪をタトゥの刻まれた手で撫でまわしながら、うっとりとした声で言った。まるで女を口説くときのようなそれが自分に向けられる居心地の悪さに、思わず喉の奥から悲鳴が漏れそうになった。
「あんた……その酒癖悪いのなんとかしろよ」
 オメルタやらなんやらもはや以下略な理由により、抵抗できないままこういう状況に持ち込まれたのは何度目だっただろうか。
 一人掛けにしては広いソファに腰を下ろしたベルナルドの足元、カーペットの上に直接膝を付けたまま、いいように撫でられるのを受け入れていた。時折、小指が耳に触れ、その度に反射でぱたぱた動く俺の耳を見て、ベルナルドが笑みを深めるのが気に食わない。
「相手は選んでるよ?」
「もっとタチが悪いじゃねえか……」
 そうだ、女扱いなんて優しいものでもない。こいつは文字通り、俺を猫扱いしているのだ。
「ルキーノ」
 名前を呼ばれて、触れられた訳でもないのにもう一度ぴくりと耳が震えたのが分かった。
 おそるおそる視線を上げると、さっきまで俺の髪と耳をなぶっていた指が、俺の唇の端から中に侵入する。犬歯でその指を傷つけてしまわないように緩く口を開くと、ベルナルドはことさら満足そうに微笑む。
「いい子だ」
 ベルナルドの反対側の手が、ジャケットのポケットを探って動いているのが見えた。カサカサと紙が擦れる音と、そこから漂う匂いに気づく。
「ルキーノ、耳倒れてるぞ」
 隠しきれない感情を指摘されて睨みつけたが、ベルナルドは掴みどころのない笑みを浮かべたままだ。
 唾液で濡れた指が引き抜かれ、そこにベルナルドはポケットから取り出した薬包の中身をふりかける。そしてそのままそれを俺の鼻先に突き出してきた。
「う……」
 抵抗しようのない匂いがして、湿った視線を感じながらも舌を伸ばす。指先に舌が触れて、あとは夢中でしゃぶった。何度か爪や肌に歯を引っ掛けたが、ベルナルドは叱りもせずに俺の好きなようにさせる。
 思考がとろりと溶け出した頃になって、俺の唾液でベタベタになった手でベルナルドが俺の頬を撫でて、その刺激でびくびくと背を震わせて手に擦り寄った。
「あんたは、卑怯だ……」
 よく回らない舌でそう零すと、腕が引かれて膝立ちにさせる。
「ああ、お前は仕方なく俺の遊びに付き合わされてるだけだ」
 そう狡い言葉を上書きして、ベルナルドは俺に唇を重ねた。羞恥を誘う濡れた音を立てるキスを何度か交わすと、体勢を入れ替えられ、俺の方がソファに座ら させられる。ぼんやりしたままベルナルドに視線を向けると、にぃ、と人の生死を決める時と同じ顔で口角を上げるのを見た。
「ココをこんなにさせてるのも、俺のせいだな」
「っ――」
 すっと、パンツの前立てを指でなぞられ、腰が浮く。そこはさっき舐めたもののせいで、既に硬くなってしまっていた。
「苦しいだろ?」
 ベルナルドはそう言うと、簡単にジッパーを下ろし中からすっかり勃ち上がりきったものを引き出して、ゆるゆると扱く。
「ぅ、……ベル…」
 声を出来るだけ堪えて口を押さえる。そんな俺を酷く楽しそうに一瞥すると、ぱくりと俺のペニスを咥えてみせた。
「ひっ、ァ――」
 先を飲み込み唾液を絡めると、状況の飲み込み切れない俺を見て目を細める。
「――ン、相変わらずでかいな…お前の」
 口からこぼれたものを横に咥えられ甘く噛まれるのを、空いた手で肘置きに爪を立てて堪える。刺激の強さに視線はそらせず、視覚からも犯されている気分だ。
「は…、ぅう」
 意地悪く亀頭の括れや裏筋を丁寧に舐める柔らかく温い舌の感触に首を横に振ると、ベルナルドは唾液で濡らした指で俺の後孔を弄り始める。
「べる、なるど……だめ、だ」
「うん? まだ足りないだろう?」
 知っている癖にして本当に何も気づいていない風に言われ、浮いた涙に視界が歪む。
「ベルナルド――」
 恥もプライドも投げ捨てて目の前の男に手を伸ばした。縋るように首に抱きついて、身体を擦りつける。
 本物の猫のように媚びると、ベルナルドも俺の身体を猫にするように撫でて、俺の倒れた耳に口づけた。
「どうやって犯されたい?」
 密やかに笑うような声で問われたのを聞こえない振りをして、ベルナルドを引き寄せる。彼がしたように今度は俺が逆に体勢を入れ替えて、ソファに押し付けると肘掛けとの隙間に膝を入れる。
「このまま、しろよ」
 擬似的なマウントポジション。それがただの虚勢だと分かっていて、ベルナルドは愛しそうに俺を抱き寄せ、頬の傷にキスをくれる。
 キスをしながらも、ベルナルドが自分の前を開けているのが気配で分かった。俺も下着ごとスラックスをカーペットに落とす。
「……ガッティーノ」
 子猫と呼ばれて睨みつけると、尻尾の付け根を強めに撫でられ、それだけで抵抗する気が失せた。身体のあちこちを知られていて、もはや抵抗しようと考えること自体が無駄なことに思える。
「腰、下ろせるだろ?」
 尻を鷲掴みにされて、びくりと震えながら頷いた。
「ふっ……く、…」
 支えを借りて、ゆっくりとベルナルドのペニスに腰を落とす。僅かに慣らされた場所が開かれていく感覚に声が漏れる。それでも舐めさせられたもののせいで、先に先にと気が急く。
「っ…、ゅう……ァ、」
 震える膝を折り曲げ、背もたれに爪を立てる。先がどうしても飲み込めずにいると、ベルナルドはため息をひとつだけ零して、俺の腰を掴んだ。
「――ひ、ッ…や、め……」
 押し付けられ、確実に自分の中に沈められていく熱に身体の中を焼かれるような感触に、ぽたぽたと涙が落ちる。ぐぷりと先を飲み込まさせられた瞬間に、息が止まった気がした。
「うー……、っふ……」
 喉から唸ると、ソファの皮に立てた爪がみちりと音を立てる。それに気付いたベルナルドがいたわるように背を撫でてきたのが居た堪れなくて、唇に噛み付いた。
「ン――」
 舌を絡め、角度を変えながらキスを繰り返すと、ベルナルドが浅い場所をねちねちと突いてきて、キスをしているのが辛くなる。荒れる息のまま文句を言おうとすると、今度こそぐっと奥までペニスが侵入してきた。
「…ふぁっ……、べるな、るどぉ――」
 自分の声が、まるで発情期の雌猫と同じだった。深く揺らされる度、濡れた自分のペニスが腹のところで揺れていて、シャツが台無しになるのももう気にしていられないほど貫かれる感覚に脳まで焼かれる。
「……きも、ち…いい」
 無意識に溢れた言葉に、ベルナルドの唇が歪むのだけ見えた。
「イっていいよ、ルキーノ……」
 ぐちぐちと奥をかき混ぜられながらペニスを扱かれ、俺は自分とベルナルドの腹の間に射精する。決壊した快感に痙攣しながら、一番奥に注ぎ込まれるのを感じていた。


*

 二人には狭すぎるソファで、決して軽くない体重でしなだれかかっていたが、ベルナルドは文句も言わず俺の背中を撫でたままでいた。
「俺みたいなのを抱いて、何が楽しいんだ」
 ぐったりしたまま尻尾でわざとベルナルドの足をくすぐってやりながら問いかける。
「お前みたいなのだから、可愛い声で鳴かせたいんだよ」
 おっさんの酷い言葉に呆れつつ、リクエスト通り「にゃー」と男の腕の中で鳴いてみた。