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年上組のセックスの話(玩具編)

※リバ/現パロ

 



 帰宅した自宅の光景を目にして、ついてない、と俺は深々とため息をつくことになった。

 一時間ほど前に送信した携帯のメールにも返事がなかったので、多少は想定もしていたが、普段は寝ろと言っても「もう少しだけ」なんて言いながら延々持ち帰った書類仕事にしがみ付いている男は、ひょろ長い背中を丸めてベッドで寝息を立てている。
 眠ること自体は渋る癖に、一度眠ってしまうと今度はちっとも起きてこないことを知っていたので、気落ちせずにはいられなかった。
 汗で額に張り付いた髪を指先でどかすと、快適な温度に設定された空調に、すうっと濡れた額が乾いていく。
 そういえば夏日に室内で干物になりかけてたベルナルドを叱ったのも自分だったのを思い出したが、“言いつけ通り”にしている恋人が、今だけは憎らしかった。
 ベッドの足元に無造作に鞄を投げ、それでも自分でも呆れるほどの甲斐甲斐しさでめくれかけていた毛布を直してやって、自然と自分の腕時計が視界に入った。
 パーペチュアルは日曜日を、短針はもうすぐ正午を指そうとしている。
 土曜の深夜に職場からのお呼び出しなんて、元々歓迎されるものでもないが、出不精・インドアの極まった同居人に「お前の誕生日になら」と渋々の外出を了承させていた日曜だったので、落胆するなという方が無茶ってもんだ。
 けれど馬鹿正直にそれを言えば、子供かとこいつに呆れられるだろうが。
 それでも諦め悪く血色の悪い頬を撫でると、薄い瞼が震えてゆっくりと瞬いた。
「…………おかえり、ルキーノ」
 寝起きの掠れた低い声と共に、触れていた指が絡め取られ握り返される。
「――ただいま」
 俺の返事を聞いたのかさえ分からないタイミングで、指はすぐにゆるりとほどけた。
「んー……」
 寝返りを打ち、毛布を抱き込んでこちらに身体を向けたベルナルドに、努めて明るく声を掛ける。
「まだ眠いか……?」
 返事はなく、穏やかな寝息だけが聞こえてきた。昨日の深夜は慌ただしく部屋を出たので、寝入りが下手くそなこいつの睡眠を邪魔してしまっていたのかもしれない。
 普段、あんたは睡眠時間が足りないんだと叱っている立場では、どうにもこれ以上は言いづらかった。むしろ、ちゃんとベッドで寝ていたのを褒めてやりたいところだ。年上のおっさん相手に、過保護なことだともう一度自分に呆れた。
 俺はようやく見切りをつけ、ベルナルドの乱れた前髪を直してやって、額に口付ける。
 おやすみ、と口を開きかけると、もう一度開いた目と視線があった。
「なんだ、レイプしていかないのか……?」
 緩く開いた薄い唇を赤い舌がなぞり、薄く開かれた瞼の隙間からグリーンの瞳がひっそりと俺を見ていた。
「眠いんだろ?」
 俺のセリフを無視して、渇いた指が絡みつく。ふっと耳に届いた吐息は寝入る時のそれではなく、俺を嗤ったのだと分かった。
 安い挑発だ。いや、こいつなりの俺へのサービスだったのかもしれない。それだけで十分だと手を出してしまうのだから、安くなったのは俺の方か。
「ん、フフ……誕生日に災難だったな…」
 誘っている癖にあからさまに眠りの淵で漏らす笑い声に、背中に腕を回しながら眉間にしわを寄せる。
「おい、それはいいが、俺とするのに手抜きするつもりか?」
「まどろんだままってのも、ああ……お前の手が」
 今にも途切れそうな声で腕の中に擦り寄る仕草は、恋人としては正しい。けれど、落ち着いて眠る場所を探している猫のようにも見えて、俺をその気にさせておいて、と舌打ちが溢れた。
「おい……」
 俺の胸の中にすっぽり収まって動きを止めてしまった男に文句を言いかけると、唐突に上げられた顔がうってかわって正気に立ち戻っていたものだから、俺は言葉を失った。
「だから、このままさせてやるつもりだったのに」
 お前が悪い、と電話口で部下を叱咤しているような声音でベルナルドは、あっさりと体勢をひっくり返して俺の身体をベッドに押し付ける。
「こら、ちょっとまて……!」
「だぁめ」
 クスクスと子供のように笑う年上の(本人も気にしているがアラフォーに手の届く)男は、俺を女のように押し倒し直して、キスを降らせてくる。
 寝ぼけている恋人の下から逃れようとすると、視界の外でカシャリと金属音がした。
「何でもいいから抱かせろ」
 にたり、と酷く嫌らしく笑ったベルナルドの手元――俺の手元でもあったが、を見ると、ベッドの柵と俺の両手首が仲良く手錠で結婚させられているところだった。
「ああ、護身用」
 俺の吐きそうな罵倒を先回りした答えを先に口にしながら、ベッドサイドに置かれていた眼鏡をかけ直したベルナルドはおっさんらしくよっこらしょ、と俺の腹にしっかりと乗った。
「さらっと言ったけど嘘だろ」
 何度かガチャガチャと引っ張った手錠は、その程度の衝撃ではずれるような玩具ではなく、俺はひとまず諦めて大人しくしたものの、睨みつけるのだけはやめる気はなかった。
「ベッドの上でも紳士でいてくれるなら、俺だって手荒なマネはせずに済むんだがなあ」
 そう言って俺の服を脱がしにかかったベルナルドの顔は、上手くいった商談の通話中だとか、俺には理解出来ない機材を弄りまわしながらウンチク垂れながしてる時と同じ顔だ。
「おい、説得力がねえぞ」
 そんな話を聞かされている時と同じように呆れて言うと、俺のシャツのボタンに掛かっていた手が止まり、ベルナルドはふっと口角を上げる。
「みんなお前に惚れるんだろ。俺だってそうだってだけだ」
 ちゅ、と無為に可愛らしい音を立てて半端に素肌の見えた俺の胸に口づけた男から、俺はため息と共に視線をそらした。
 この年上の恋人は、酷く拗らせている癖に時々こういう顔を見せる。遊び慣れた淑女のようにわざとやっている時もあれば、処女のように何も分かっていない時さえある。
「よかった、お前も興奮してるな?」
 腰をなぞるように押し付けられれば、硬くなったペニス同士が布越しに擦れ合う。一層笑みを深めた男に、今日は無自覚の方かと気づいた。まったく、ろくなもんじゃない。それにハマって、普段は愛想の欠片もない、加齢臭に怯えているオッサン相手に「可愛い」なんて言葉で虐めたくなる俺も。
「なあ……外せって……」
 手際よくベルトを外し、俺のスラックスを足から抜きにかかったベルナルドにそう苦情をつけてみるが、軽くスルーされた。
 瞬く間に俺の下を剥いた男は立ち上がりかけた俺のペニスに唇を寄せる。
「いただきます、と」
 まだ寝ぼけてるのかと思えるテンションでぱくりと柔くペニスを噛まれる。薄い唇の印象のせいか、やけに柔らかく感じる舌が鈴口から裏筋をなぞって、俺のものに唾液を塗していく。
 されるがままになるのは、俺の趣味じゃない。本来なら撫でてやりたいベルナルドの長い髪が俺の腹をくすぐって、時折眼鏡のフレームの上から様子を伺うような視線が飛んでくる。
 気持ちはいい。でも、足りない。息は上がってくるが、触れられない手を持て余す。
「ベルナルド……」
 縋るように名前を呼ぶと、俺のを口にしたまま、猫のように喉を震わせてベルナルドが笑った。
「っ、おい、どこ…に……」
 咥え込まれながら、つぷりと嫌な感触がする。微かに唾液で濡れたベルナルドの指が後ろに僅かに入り込む。
「両方されんの、どんな感じだ?」
「痛ぇ」
 素直な感想を述べると、ベルナルドは露骨な落胆を見せた。
「つまらん……」
 ガキのように口を尖らせる男に、ピンと来る。もう、そこそこ付き合いも長い。
「なんだあんた、両方されたいのか?」
「……フハハ」
 わざとらしく、気のない素振りを見せるが、こっちはわざとだ。
 変態め、と口にはせずに自由になる足でベルナルドの腹をなぞる。本心が分かれば、あとは簡単だと思った。いつだって、この恋人は存外に単純だった。
「――外せ。レイプしてやるよ」
 眼鏡の分厚いレンズ越しに冷めた印象の目が細められるのと、喉がゆっくりと上下に動いたのが見えた。
 手品のようにベルナルドの手元に現れた鍵が手錠に差し込まれる。
 自由になった腕で性急に俺を好き勝手していた男を捕まえて、体勢を入れ替えると、外された手錠を今度はそのまま片方だけ手首と柵と仲良くさせてやる。大人しくなった恋人を取り敢えずそのままに、俺は硬くなった手首をほぐした。
「なんだ、お仕置きの放置プレイか?」
 もぞりとベッドの上で所在なさげにしている男を、今度は俺が鼻で笑ってやる。
「だからレイプしてやるつってんだろ、両方」
 当然ながら、俺の言っていることが理解しきれない男を取り敢えず放っておいて、置き去りにしていた鞄に手を伸ばした。
「帰りがけに誕生日プレゼントだって部下に押し付けられた時は、馬鹿かと思ったが、タイミングは良かったな」
 慣れた動作で金具を外し、奥に押し込めていた紙袋をベッドの上に引きずり出す。一度開封したそれには、「出張のお供にどうぞ」と頭に悪そうな文字列が並んでいる。
 これを押し付けてきた部下も徹夜明けのテンションでしでかしたとも思ったが、一週間前から準備していたというセリフを受けてよっぽど突っ返してやろうかと思った。
 紙袋の中身をひっくり返すと、ボトリとゴムボールのような塊と小さなボトルがシーツの上に転がり落ちる。
 俺は手渡された時、なにか理解するまで時間を要したが、ベルナルドはあっさりとその道具の用途を看破したようだった。
「……いい部下を持ったな」
 いっそ笑い飛ばされた方がマシだったが、堪えるように言う男に、手加減は不要だと舌打ちをもう一つ。
 薄手のパジャマをズボンを下着ごと剥ぎ取ると、本来なら「ひとり遊び」用の道具、いかにもありがちなベビーピンクのオナホールを取り敢えず手の甲で弾いて、一緒に入っていたローションボトルの中身を自分の掌にぶちまける。
「ん、っ……」
 迷いなく立ち上がったままのベルナルドのペニスにそのまま触れると、小さな声が上がった。
「ああ……温感か」
 体温で温めるまでもなく、熱を持ち始めた滑りをこすりつけるとひくりとベルナルドの内腿が震える。
「はは、部下に愛されてるなァ……」
 まったく取り繕えてない癖に強がる男のペニスの先を親指で押しつぶしてやると、行き場のない手が手錠を微かに鳴らす。それに気をよくして鼻先に口付けた。
「それが嫉妬で言ってくれてるなら可愛げもあるんだけどな?」
 ついでのようにそう耳元に吹き込むと、ベルナルドはまた笑った。
「浮気相手にオナホプレゼントされるようになったら、男として終わってるぞ?」
 ん? と掠れた息で笑ってみせるベルナルドは、煽るというよりも単純になにか喋っていないと不安なのだろう。
「それで?」
 先を促しながら、べったりとローションで濡れた指先で袋の筋までなぞって奥の窄まりに沈めたが、返事はなかった。
 滑りのせいか普段より抵抗の少ない穴を引っ掛けるように虐めると、震える唇の隙間から途切れ途切れに確かに色を持った喘ぎが漏れる。
 普段より派手にぐちぐちと耳に届く水音に耐えられなくなったのか、再びベルナルドは口を開いた。
「ッ…、……普段と流石に違う、な」
 吐息に隠れるようなその声が、腰にクる。
「結構温かくなるもんだな。……イイのか?」
「……なか、試してみるか?」
 俺を煽りながら、ベルナルドが長く伸ばした前髪の隙間から俺の手元をしっかりと観察していのが分かったので、何も言わずに指を引き抜きペニスを押し付ける。
 体重を僅かに傾けただけで、あっさりと先が飲み込まれた。
「あ……、――」
 サイズのせいか、普段は言わないまでも最初は痛がる恋人も、痛みがなかったのか先の収まった場所を呆然と見た。そこから先をゆっくりと切り開いて行くと、ベルナルドの体温の延長のように、じわじわとペニスが熱を感じる。それだけで、普段よりも快感が形をなす。滑りだけでも中々いいが、確かにこれは癖になりそうだ。
「ふ、ぁ……ふか、い……」
 気づくと、ベルナルドのペニスが俺の腹に触れている。
 ああ、そうだ両方を犯してやる約束だったと、余りにも自然に収まっている結合部とペニスに、ボトルの中身を全部ぶちまける。
 冷たいと感じたのは一瞬だけで、あとはまたお互いの熱が溶け合うような感覚になる。
「ルキーノ……」
 自由になる片手が、許しを乞うように俺のシャツを掴む。
 安心させるように頬と唇にキスをして、玩具の入口をベルナルドの亀頭に押し当てた。
「んっ、う、っ……ァ」
「結構狭いな……」
 ローションの滑りを借りてもやや抵抗のある玩具を先に進めると、ベルナルドの声が酷く甘ったるく蕩けていく。
「あ……ッ、ヒ、ぅ」
 薄く開いた唇から赤い舌が覗いて、ヒクヒクと収縮する後孔と同じように震えていた。
「はは、後ろもギチギチだ……」
「だ、だめ……だ、る、き……ひっ!」
 縋る腕と言葉を無視して一度大きく腰を揺すると、ベルナルドは喉を晒して悲鳴を上げる。
 腰を揺らしながら玩具を掴んでペニスを扱くように動かすと、声もなく組伏している身体が痙攣し、貫通している玩具の先から透明のローションに混じって白濁が溢れた。
「そんなにイイか?」
 ベルナルドは呼吸もままならないまま、濡れたグリーンの瞳で俺を見て、小さく頷く。素直な反応をする恋人の唇を吸って舌を嬲りながら、俺を掴んだままだった手を玩具に導いた。
「――最高に気持ちよくしてやるから、な?」
「ァ……」
 顔にキスを降らせながらそう耳に吹き込むと、とろりと熱に熔けた目から視線が俺の目元を掠めてイったばかりの性器に落ちる。
 のろのろと自慰のように手が動かされ始めると、ベルナルドの身体に収まった俺のペニスもきゅうきゅうと締め付けられた。
「いい子だ……」
 濡れたままの手で揺らめく腰を掴んでずるっとペニスを引き抜く。
「…、ぅ……ぁ、ア」
 涎と共に溢れる声に目を細め、熱く脈打つ場所に再び収めると、締まっている癖に柔らかく受け入れる場所に息を呑んだ。
「ルキ、……―ぅ、ン」
 名前を呼ばれて、どろどろに溶けたようになっている場所を深く深く犯す。激しくはないのに、水音がやけに耳に残ってじくじくと背を登る快楽に、まるで女にするように中に射精した。
「ン……、」
 深い呼吸に、ベルナルドの胸が上下している。その手元で、玩具が外れてシーツの上に転がいた。
 さっきまでの、寝起きと同じようなはっきりとしない視線にまたぶつかって、キスを強請られているのが分かる。
 色の薄い唇に、舌の赤みが嫌に目立った。枕元に転がったままだった鍵で手錠を外してやると手が差し伸べられ、突っ込んだまま抱きしめる。そのまま唇を重ねると、ふっとベルナルドが満足げに笑う。
 繋がったままの場所から、どろりと濁った精液が溢れてシーツを汚していた。


        *


「……お前もまだ若いなあ」
 気怠げに俺にしがみついていたベルナルドは、微かに枯れた声でぽつりと呟いた。
「あんたは変態だけどな」
 落ち着いてきただろう身体を僅か離すとペニスが抜けて、ぽっかりと空いた孔からローションと混ざり合ったまだらな液体が落ちる。
「ん、……フフ」
 ふるりと身体を震えさせて笑ったベルナルドは、肯定も否定もせずに俺の腕を引いて唇に触れるだけのキスを――。
 耳覚えのある金属音が、視界の外でした。
「さて」
 冷めた金属に拘束された手首が、軽い動作で今度は後ろ手に繋がれ、ベッドに転がされる。
「おい!」
 豹変したように涼しい顔をしたベルナルドに(実際豹変しているわけだが)文句を投げかけてみるものの、当然無駄だった。
 身体を起こしたベルナルドが残っていたパジャマの上着の前を開くと、広めの布地に隠れた股間から、内腿をどろどろの液体が流れていくのが見えた。
 酷く扇情的な身体を見せつけながら、ベルナルドは唇を舐める。
「お前の可愛いところは、俺のことを変態だのなんだの言いながら、結局自分がどこまでされるか想像がついていないところだな」
 恐ろしいことをさらりと言った男が汗で濡れた髪をかき上げたと思うと、腕を掴まれた。重心が上手く取れずぎしりと一瞬骨が軋み、気づくと俯せに転がされている。よりによって、膝は付いた状態で。
 裸の尻に、ベルナルドの指が触れて、空調のせいではない寒気がした。
「おま、え……!」
 上手く発せられない言葉に、悪魔のような男がクスクスと笑う。
「さっきまで犯してた男に犯される気分は、どうだ?」
「――っ!」
 ぼたぼたと尻に粘液が落ちてくる。俺の視野には空になっているローションのボトルが転がっていて、無理矢理身体を捻って正体を確かめた自分に後悔をした。
 ベルナルドの手元にあったのは、あの卑猥な色と形をした玩具だ。さっきまで“使っていた”中身を、ベルナルドはよりにもよって俺の尻にぶちまけている。
 大人しく犯されたのも、“使わせた”のもこのためか、と声にはならなかった。あっさりと指を突っ込まれたからだ。
 上げそうになった悲鳴を噛み殺し、睨むにも睨めない状態で、俺はただ目の前に転がっている枕に噛み付く。
「まだ温かいな」
 ローションのことを言ったのか、別の意味で言ったのかを俺は理解することを放棄して、ただ後ろを暴かれる感覚から目を背けたかったが、言葉の通りまだぬるい液体が中に塗り込められる度に、腰が情けなく揺れる。
 逃げるタイミングは完全に逸した。暴れても苦情をつけても、ベルナルドを増長させるだけなのは分かっていたが、恋人のセックスの一環として楽しむにはハードルが高すぎる。
「っ、く……そ、」
 枕に吐いた声は、幸い耳障りな水音にかき消された。実際は、一つも幸いでないが。
 なんて誕生日だ。
「回数が少ないにしろ、毎回律儀に嫌がるところも可愛いけどな」
 俺がさっき自重したセリフをあっさりを投げかけてくる男と同棲している自分に嫌気がさしてくる頃に、ほぐすためだけに動いていた指が引き抜かれ、怒張があてがわれた。
「……、っふ、うう、ベ、ル…」
 液体の滑りを使って、常にない速さでベルナルドの熱が腹の中に侵入してくる。奥の方まで貫かれる感触に、軽い吐き気さえ覚えた。
「はは、すごいな……こんな奥までは始めてだろ……?」
 わざわざ実況してくる男を殴りたくなったが、一度奥に潜り込んだ楔が引き抜かれ、今度はぐちぐちと浅い場所を抉り始めてそれどころではなくなった。
「ひ、ぅ、ッ…! や、め……あ、ァ」
 抵抗しようとも確実に快感になる場所を擦り上げられ、しかも時々ベルナルドの腹が俺の尻に当たる。その度に嘔吐く俺の背中をいやに優しくベルナルドの掌が撫でた。
「も、……腕、はず、せ……!」
 乱暴なんだか優しいのか理解しきれないまま、痛みからそう呻くと意外とあっさり動きは止まる。
 恐る恐る身体を捻ってベルナルドを見ると、既に手錠は外されるところだった。無理をさせられていた腕をベッドにつけると、ベルナルドがそっと背中にのしかかってきた。
「なあ、逃げるなよ――」
 手に手を重ねられ、指を絡められると、ちゅ、とピアスにキスをされて「俺にも最後までさせてくれ」と呟かれる。
 卑怯な物言に俺は動けなくなって、俺の返事を待つようにキスだけを降らせる男に幾度となく感じている呆れと馬鹿馬鹿しさに音を上げた。
 どうにも拗らせている俺の恋人は、いつまで経っても甘えるのが下手糞だ。甘え方も若干おかしい気もするが、それはともかく。
「逃げるかよ……」
 正直このセックスからは逃げたいがそう答えると、ベルナルドは一瞬の間の後にふわりと笑った。
「お前は馬鹿だな」
「あんたほとじゃない。……あー、いや、この状況だと弁明しきれんが」
 ああ、墓穴を掘ってるな、と自覚するのとほぼ同時に、耳元にまた笑い声が届く。そして文字通り再び掘られる。下らない状況に俺もまた笑うしかなくなる。
「――、も……はやく…おわらせ、ろ」
 手を握り返すと、愛していると言われる。タイミングが悪いと思ったが、セックス中に恋人に言われるセリフとしては余りにもベタだとあとから気づいた。
「イ、く……」
 俺の背中を抱いたまま囁いて果てたベルナルドが、俺の腹の奥の方に精液を吐き出す。俺は結局上手くイけなかったが、ベルナルドの体温は嫌ではなかった。


        *



「文句アリアリな顔してるが、記念日にセックスしない恋人同士なんているのか?」
 シャワーを済ませると、とっとと着替え始めてたベルナルドを尻目に、俺は気怠さを追いやれずにベッドにうなだれていた。
「いるんじゃないのか? 年中仕事中毒の恋人を持ってるやつら、とか」
「……してるだろ」
 今、と言い出さんばかりのベルナルドを行儀悪く足先で突いた。
「忘れたとは言わせないからな?」
 例えば去年のクリスマス、例えばお前の誕生日、と女々しく並べ立てるまでもなく、ベルナルドは「悪かったよ」と口先だけでは謝った。
「寝るのか?」
 言われて、自分が目を閉じてしまっているのに気づいた。そもそも、昨日は寝ていないのだ。だからもう返事をするのさえ億劫だった。
「おやすみ、ルキーノ」
 ぬるく心地のいい声に、すっと自分が眠りに落ちてゆく。
「……Buon Compleanno.」
 暗転する世界で、項にキスと聞きなれない言葉が降った。