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年上組の婚活の話

 酔った勢いと言うものは恐ろしい。
 早朝に、景気よく叩かれる鐘が、自分の頭とすり替えられたかのような頭痛と、芯に重い鉛を持ったような気分。
 それから酔も覚めた目に、現実に鎮座ましましている自分が仕出かしてしまった事態に、若い間は何度も後悔したものだ。
 普段、本音を口にするのが苦手な性質であったから、余計に自分にはアルコールというものは、厄介だった。
 いらない口が滑る。普段押さえつけていた欲望を開放してしまう。
 単純明快に、酒癖が悪いと言われればそれまでなのだが。
 そういう酔った勢いの若気の至りのようなものを、今は大分自制出来ている。と、つい数時間前までは思っていた。
 頭痛はさておき、黙々と仕事を始末しながら思考を殺している中で、ルキーノがいつもの顔で、書類を俺のデスクに放っていく。
 いや、いつもの顔ではない。取り繕ってはいたが、目が死んでいた。
 "酔った勢い"に、後悔しているのは俺だけではなかった。
 共犯者と苦笑すら共有出来ず、用件の会話を二言、三言交わして、背中を見送る。
 数時間前、ルキーノと同じ場所で聞いたセリフが脳裏をよぎった。
『――カポ命令だ』
 神に愛された我らがボスは酒にしたたか酔った俺達に、天使に見間違えるような極上の笑みで言った。
『お前ら二人、ちゃんと結婚式上げろよ』
 なんのことはない。
 その場にいた酔っぱらいは、三人だったというだけの話なのだ。
 週明けの鳴り止まない、洪水のような電話の呼び出し音にだけではなく、俺の頭は頭痛が痛かった。


*


「自分の右手とよろしくやるくらいなら、女を捕まえる。女を口説くのが面倒になったらそれはもう、男として終わっている」
 なんの理由かは覚えてはいないのだが、ルキーノがそんな話をしているのを聞きながらサシで飲んでいた。そもそもそれが間違いの始まりだったのはあとから気づいた話だ。
 とにかく、気に食わない話を続ける男の話を半分聞いてるんだか聞いてないんだが、そもそもルキーノだってかなり酔っていて話の要領を得ていなかったし、そんな十代がやるような下らない飲み方をしていたのは、よっぽどいいことがあったのか、忘れたいほど面倒な目にあったかのどっちかだ。もう、起因自体はどうでもよかった。
 俺もルキーノも馬鹿みたいに酔って、なんの実りもない猥談に花を咲かせ、結果はアレだ。いわゆる朝チュンという奴だ。
 お互い全裸でベッドに転がっている朝に、俺は頭を抱えて「どうしてよりによってお前なんだ」と呻いた。
 それは後々失言だったと後悔するハメになるのだが、後悔が先に立つことなどそもそもないので、俺はその一言でルキーノに「ジャンとだったらよかったのか?」と冷ややかな視線を送られた。
 つまり、何もかもバレていたというだけの話なのだが。
「昨日は散々人に好き勝手した挙句に、間違えましたとか言い出す気じゃねえだろうな?」
 言われて俺は一気に夜中の記憶を発掘し、女を惚れさせる男をオンナにしてやろうという意味不明な思考回路のままルキーノを剥いて食べてしまった現実を思い出した。
 いや、酔ってはいてもライオンがただの子猫になる瞬間にはそそられたし、アレな話なのだが妙に身体の相性がよかった。
 ルキーノとは大分体格差もあったが、軍人時代のちょっとした体術と酔いが手伝って"無事"にレイプを果たし、目覚めた瞬間にそこだけを忘れていたのだ。
「……お前、意外と可愛かったんだな?」
 墓穴の底を掘ると、ルキーノは滅多に見せないタイプの笑みを浮かべて俺の腕を捻りあげると、レイプ仕返してきた。
 朝の明るい光の下、いろいろ見たくないモノを見えてしまってはいたが、清潔なシーツの上で犯されるのは新鮮だった。
 まあ、なんだ、そっちも俺たちはどうも相性が良かったらしく、抜かずに三発ほど発散させられ、気がついたら夜だった。
 俺は綺麗に着替えさせられてベッドに寝ていて、丁重に謝罪の手紙がベッドサイドに残されていた。
 俺は射精しすぎで完全に馬鹿になっていた頭で、お互い様なのにこんな丁寧に俺を扱うなんて、ルキーノは馬鹿なのだろうかと思った。
 後日気づいたが、ルキーノも射精のしすぎで馬鹿になっていただけに違いない。
 一人、タフにも仕事に出向いたルキーノは完全に俺の穴を埋めて――尻穴の話じゃないが、まあそうやって俺が目が覚めて謝罪文と向き合った数分後に、タイミングよくケータリングを抱えて帰ってきた。
 二人でなんとなしにそれを食べながら、何故だか流れでキスをした。
 流れとしか言い様がない。お互いに何かの感情を持っていたことはなかったはずだ。そう思っていたが、その時は恋人のように思えた。
「セフレにでもなるか?」
 キスをした直後にそんな風に俺が冗談めかすと、ルキーノは首を横に振った。
「こんなに距離が近すぎるセフレなんて、冗談じゃない」
 もっともな意見に俺は笑ってしまって、そうだな、と頷いた。
 けれど、身体の相性やらなんやら、とにかくルキーノとのセックスはよかったのだ。夜のことも朝のことも、思い出すと手放し難くなった。
 俺が考え込んで黙っている間、ルキーノも難しい顔をして口を噤んでいた。なんのことはない、似たようなことを考えていただけなのは分かったので、押し倒してみた。
「こういう始まりも、アリじゃないか」
 わざとらしい言い訳を重ねてみると、ルキーノもそうだな、と頷いた。
 ベッドの上で、服を脱ぐのも面倒なのに唇と指で触れ合ってセックスをした。どっちがどっちに突っ込んだかも正直覚えていない。どっちにも突っ込んだのだと思う。どうだったか見失うほど気持ちよかった。
 そうやって俺たちは、「セフレになるのもアレだ」という曖昧極まりない理由で恋人同士になった。
「世間はそれをセフレと呼ぶと思いますが」
 空き缶でクリーム色のコーヒーを啜っていたラグは、俺の説明に対して呆れ声ではあったがツラにはいつも通りの笑みを貼り付けて、話の腰を折った。
「……まあ、いいんだとにかく」
 何がとにかくなのかは定かではないが、とにかくと俺は言葉を切った。
「それをジャンに見つかってな」
「ハァ」
 ラグは今度こそまるで隠しもせずにぞんざいな返事をして、少し考え込んだ。
「それで、僕に介錯でも」
「違う」
 ラグが言うには冗談にもならない返事に俺は頭を振ったが、もしかしたらそっちのほうがマシだったんじゃないかと思えてくる。
「ジャンが……ボスは、俺たちに結婚を……式を上げろと言い出した」
 重々しく言葉を吐ききった俺を数秒見つめてから、ラグは珍しく声を立てて笑った。
「笑うところか」
 自分で言っておきながらなんだが、笑いどころしかないのも自覚があったので、盛大に肩を落とした。
「ふふふ、すみません」
「取り敢えず、涙は拭いてくれ」
 死にたくなりつつもそれだけ言うと、ラグはヤッケの袖で目元に浮いていた涙を拭き取って、居住まいを直す。
「それで?」
「まあなんだ、セフレじゃないのなら覚悟を見せろということなんだと思うんだが……」
「面白がってるだけじゃないんですか?」
 俺が精一杯取って付けた建前を一蹴され、俺はぐっと息を呑む。それを察したのか、ラグは「あー」と気の抜けた感嘆詞の後にわざわざ言い直した。
「それで、僕に頼みでもあるんですね?」
 昔からだが全く本心のつかめない、色眼鏡をじっと見つめてから諦めて先を進めた。
「場所……な。秘密を守りきれる場所といったら」
「ああ、ここはうってつけですね。バージンロードというには少々血なまぐさすぎますが」
「それは今更だろう?」
 神父どころか部下すら呼べるはずもない、形ばかりのソレは、飾り立てする必要もないので実際、どこでもいいのだ。それこそ、どこか一室でボスにさえ誓えばいい気もしたのだが、それは即刻ジャンに拒絶された。
『形ばかりでいい。むしろ形にするのが大事なんじゃねえの』などとジャンが言うと、俺には理解出来なかったがルキーノの方が頷いてしまったので、もう逃げようがないのだ。……わりと死にたいが。
「というか、するんですか。その……本当に?」
 今しがた必死に頭の中で納得したつもりになったことを掘り返されて、俺は睨みつける気力もなく力なく笑った。
「クラッカーの代わりに祝砲でも撃ちましょうか?」
 ラグ流のジョークだろうが、俺が返事出来る訳もなく、遠くから虚しく豚の鳴き声が聞こえてきた。
「目が死んでますよ。普段から死にかけみたいな目ですけども」
 普段だったら仮にも目上を捕まえてなんて口だと言いたいところだったが、俺の口から漏れたのはため息だけだった。
「……死なないために、必死なんだ」
 ため息と共に漏れた本音に、ラグはニヤニヤと表情だけで笑っている。
「まあ自業自得ですけどもね。荒療治でもないと、あなたは家庭なんて持てないでしょうし」
「かて……」
 想定外の単語を耳にして、俺の思考回路は今度こそ凍り付く。
「あ、ご結婚おめでとうございます、ベルナルド」
 ラグは笑顔でトドメと言うよりは、ご丁寧に墓標で俺をぶん殴って、コーヒーを飲みきった。


*


 仕事と個人的用件――もっとも、ボス命令ではあるのだが、を済ませた俺はその足で本部に帰ると、収まらない頭痛を抱える身体で執務室に足を運んだ。
 普段は俺が座っているデスクにジャンが腕を組んで座っていて、俺と目があった瞬間ににこりと微笑まれる。その笑顔は、昨日の夜に向けられたものと同じものだった。
 何もかも酔った勢いだ。正気に帰ったジャンが発言を撤回してくれることを少しは期待していたが、当然ながら夢でしかなかったようだ。
 昨日の出来ごと自体が夢だったら、それが何よりの救いだと思ったが。
「ご用はなんでしょうか、マイロード」
「一応、昨日のことを確認しておこうと思って?」
 ちらっとジャンは視線をそらして、それにつられて室内のソファを見るとルキーノが囚人の頃と同じ顔をして座っていた。
 昨晩のように、ジャンの足元でジャポン式の正しい謝罪をさせられていないだけましだったが、どうしたってその時を思い出さずにはいられない構図だ。
 昨日、身内だけのパーティで機嫌よく酒を飲みすぎた俺たちが、会場を抜け出して執務室で酔った勢いのまま服を脱がし合い、先に出したほうが下役だ、なんで脳味噌が溶け切った遊びに興じているところをジャンに抑えられた俺たちは、どうしてこうなった。
「まあ、焼き土下座させられるよりはマシだろ?」
 俺の心を呼んだかのようなタイミングで、よく分からないことをジャンは口にし、ルキーノはまるで怯えるように身震いをした。首をかしげたまま、とにかくジャンに場所だけ抑えたのを伝える。
「エクセレンテ。やっぱり仕事が早いな、ベルナルドは」
 ちっとも褒められてる気のしないセリフと共に、ジャンは普段俺がするのと逆に、俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。
 実際のところ、ジャンは俺たちに死だって言い渡せのに、それを寛大にお灸をすえるだけで許そうとしてくれているようにも思えるのだが、よく分からないままふらふらとルキーノの正面に腰を下ろした。
 難しい顔をしたままのルキーノを見ると、手元の書類を睨みつけている。
 ジャンにまた何か無理難題をふっかけられたのかと書類の中身を伺うと、内容を理解するよりも先にルキーノは重々しく口を開いた。
「それで、どっちがドレスを着るんだ」
 一瞬何を言っているんだこいつは、と思ったが、考え直しても何を言っているのかは分からなかった。
「……そんなことで悩んでたのか?」
 書類と思っていたのは、どうやらドレスのカタログらしい。仕事中でも見ないような真面目な面を晒して、何を悩んでいるのかと呆れ果てる。
「だったらあんたが着るのか?」
「お断りだが」
「じゃあ、似合う方が着ればいいんじゃネ?」
 いつの間にかソファの後ろから、ルキーノの手元を覗き込んだジャンは、ルキーノと一緒になってカタログの中身を選び始めたようだった。
「コンプレートでいいだろ……?」
「えー」
 ブーイングをしてきたジャンと、ほぼ同時にどういうわけかルキーノも俺の顔を見た。
「ジャンはまだしも、なんでお前も不満げなんだ」
「折角の機会だぞ?」
「なー?」
 学生同士の会話のように同調する若造二人に、俺は肩を落とすことになった。
 しかしルキーノが人を飾り立てるのが好きなのは察していた、そっち方向にも趣味があったとは思わなかった。指摘できた義理でもないが、とんだ変態だ。
 カタログを見ながらあーでもないこうでもないとやっている、能天気な二人を見ていると、自分だけが無駄に悩んでいる気がしてきた。
 目の前に繰り広げられる茶番劇を眺めながら、また頭痛が酷くなってくる思いだった。


*


「どうしてこうなった」
 数日後、仕事に追われ、結婚式を上げるなんてバカ話は夢なんじゃないかと思いかけていた、が。
 仕事がハネた後に捕まって私室に引きずり込まれると、俺が苦情を言い終わるよりも早く、花嫁衣装らしきものに俺は着替えさせられていた。
 コンプレートも下着も全部剥ぎ取られ、足にガーターベルトを通されたときは流石に殴ったがあっさりといなされる。鼻歌を歌う男にコルセットビスチェを着せられる頃になってからはもはや抵抗も諦めたが、女性物の小さな下着だけは断固と拒否した。
「今一番流行のマーメードラインのドレスだぞ。何が不満だ」
「不満以外の何を覚えろと言うんだ」
 背中も肩も、ついでに言うなら細く絞られたスカートの中も、普段は外気に触れない場所がさらされて落ち着かない。胸から下ははっきりと身体のラインが出るドレスは、どう考えても特注らしくいくらかかったんだとそっちに意識が行った。本人に言えば無粋だと文句で返されるだろうが。
「折角、男の癖に細っこい身体してるんだ。それを生かさずに――」
 底なしに機嫌の良さを見せていた男の声が、俺の腰を撫でている途中で止まった。
「ケツ……」
「あ?」
 俺が不信感を露わに顔を上げると、ルキーノは俺のドレスの胸元に手をかけて、何の色気もなく剥き始めた。
「脱げ」
「脱がしながら言うな! つーか俺はお前の着せ替え人形じゃねえぞ!」
 人の文句など右から左。それは普段からだったが、普段に増して急降下した不機嫌さそのままに、
「だからメシを食えつってるんだ。なんだその貧相な尻は!」
「男の身体に何を期待してるんだお前は」
「毎日椅子に乗っけてるんだから、多少必要なもんだろうが。腰に悪いぞ」
「どういう理屈だ」
「いいからほら、壁」
 人の苦情の対応もそこそこに、俺の手を差した男は至極真面目だった。心底呆れたのだが、ここで抵抗してもいいことはなさそうなので大人しく壁に手をつく。
 どういうわけかルキーノは手馴れた動作で俺の腰に膝を押し当て、緩く結ばれていたコルセットの紐を引いた。想像したものより圧倒的な圧迫感に、思わず悲鳴を上げた。
「出るっ! 内蔵が出るっ!」
「こんなことで出るかよ。あんたがやる拷問とは別だぞ」
「似たような……あだだだだ!」
 壁紙に反射で爪を立ててしまうせいで傷が残ってしまうのが視界に入ったが、それどころじゃない。ルキーノは鼻歌でも歌いだしそうな機嫌の良さに戻っていて、本当に腹の中身を吐いてしまいそうだ。そもそも、どう考えてもこっちのほうが腰に悪そうだ。
「ッん……。ルキーノ、頼むから」
 紐を引く手が緩んだ合間に思わず振り返って懇願すると、ルキーノの目の色が変わるのに気づいて、本能が警報を鳴らした。盛大にしくじったぞお前は、と自分自身が呆れる声が聞こえた気がした。
「おい、そそられてるんじゃない」
 腰に当てられていた足が離れ、代わりに背中に身体自体を押し付けてきたルキーノが、背後から俺の手を両方共捕まえるように重ねてきて、耳にキスをしてくる。
「無茶言うな」
 熱の上がった声と息が耳にかかると、どうしても背筋が粟立つ。こういう分かりやすいところはまだまだ年下だなと思う。今はそれどころではないが。
「苦しいんだが……」
 どうやってこの場を逃げ切ろうかと考えていると、ルキーノが鼻で笑う。
「まさか誘ってないとでも言うつもりか?」
「勘違いも甚だしい」
「可愛くねえ」
 ふう、と深く息を吐いた男は、それでも仕切り直しするように笑った。
「まあそれが可愛いけどな」
 慈悲深く微笑む男を見て、海より深く死にたいと思った。
「もっと堪能させろ。尻の膨らみは足りないが、ココのラインは俺好みだ」
 するりとルキーノの手が俺の腕を辿ってそのまま肩から腰を撫で下ろす。自分の背中にのしかかっていた体重が浮いたのを不審に思って首をずらすと、屈んだルキーノが俺の腰辺りに顔を寄せるところだった。
「ひっ」
 濡れた感触が丁度、コルセットと肌の境目に触れて、声が漏れる。
 ルキーノが満足そうに笑うのが聞こえたが、文句を言う前に今度は背骨に沿って舐め上げられる。
「も、やめ……」
「んー? こっちがその気になってないんだったらな」
 俺の腰を捕まえていた手が蛇のように這って股間にかかったレースの中に入り込む。完全に立ち上がった俺の陰茎を掴むと、ルキーノはなんの躊躇いもなく軽く扱いてきた。
 今になってから下着を拒絶したのを後悔しかけたが、あんな布切れ一枚ではどうにもならなかっただろう。
「倒錯的なの、好きだよなあ……あんたは」
 嫌に感慨深く言った男から視線を外して、目の前の壁を睨みつける。
「うるさ、い……」
「こうやって汚されるのも趣味の範囲なのか」
 言葉責めを始めるつもりらしい男の言葉を無視して目を閉じると、背を猫のように舐められる感触とペニスを愛撫する指の感覚が生々しくて首を振った。
「っ、お前は花嫁を犯すのが趣味なのか」
「あんたを犯すのが、だ。少し前だったら考えられなかったがな」
 思い出話でもしだしそうだった声は、気を取り直したかのように温度を落とす。
「望み通りしてやるよ、ベルナルド」
 ルキーノの声音に、僅かに加虐者のそれが混じったのが分かった。
 動きで緩まりかかっていたコルセットの紐が引かれて、息が一瞬止まる。
「――っぅ…ふ、う……っ」
 かり、とまた勝手に壁紙に爪が傷を増やすのが見えた。
 ギシギシと骨が軋むんじゃないかと思うほど締め上げられ、今度はしっかりと紐を留められる。
「優しくされるより、痛い方が好みなんだろ」
 それでも普段なら、優しくさせろと言い張る男が何が興に乗ったのか、息苦しさに返事も出来ない俺の裸の尻を平手で叩く。鋭い痛みの直後にじわりと肌が熱を持つ。
 震えるまま、もう一度ルキーノを見ると目が合った。人を征服しようとしている男の目をしているのを見て、自分が期待しているのに気づいて呆れた。
 俺の自覚にルキーノも勘づいたらしく、喉で密かに笑われるのにいたたまれなくなる。
「こんなのがこの街を統べる組織の筆頭幹部って言うんだからなあ……」
 酷く楽しそうに先を濁した男に苦笑して、首を振った。
「次席殿も、とんだご趣味をお持ちのようで……」
「誰のせいだ、誰の」
 震え声でしかなかった嫌味に舌打ちが聞こえたが、やはり楽しそうな男はそれ以上は文句も言わずに唇と指で身体に触れてくる。
 俺もまた、壁に手をつけたまま本物の生娘のように抵抗もせずにされるがままでいると、本当にレイプされている気分になってくる。
 スキモノと言われてもしょうがないが、気持ちいいのだから仕方がない。
「……、ァ」
 先走りで濡れたルキーノのペニスが、性急に尻にあてがわれる。普段のように焦らすでもなく、一気に貫かれて俺は射精していた。
「ふ、っう…うぁ――」
 真っ白なツイル生地に吐き出された体液が、滴ってカーペットに落ちていく。強い快楽と脱力にずるずると壁から崩れそうになるのを、ルキーノの手が支えた。
「早いな……?」
 唇が震えてまともに返事が出来ないでいれば、俺を捕まえていた手が顔に触れて、口を割って指が侵入してくる。自然な流れでその指をしゃぶると、背後から満足そうな声が漏れるのが聞こえた。
「こっちはまだ足りなさそうだな」
「っ、ィ……ぁっ、ア――」
 空いた手でコルセットを掴まれて腰を引き寄せられると、もう収まらないと思っていた場所が押し開かれて、視界の淵が白く焼け抜ける。
「ン……、流石にキツイな」
 ルキーノの声も快楽に濡れているのが分かって、俺は唇に触れている手を掴んだ。
 先を強請るように手の甲に爪を立て、自分の唾液で濡れそぼった指先を甘噛みする。ルキーノが一瞬動きを止めたのに俺は満足して、鼻で笑った。
 照れ隠しらしい舌打ちが聞こえて、思わずまた一つ笑い声を立てたが、それは余計だったらしい。
 もうルキーノから言葉はなく、俺の手を振りほどき口から指が引き抜くと腰を両手で掴んだ。不安を覚える無言に俺が何か言う前に、ずるりとルキーノのペニスが引き抜かれて背が反る。
「う、ン……、ふ」
 なんとか息を吐いて体勢を立て直そうとしたが、挿入された時と同じように再び押し込められた。そのまま、ルキーノは俺のペースを考慮することもなく勝手に腰を使い始める。
「あっ、ッ、ア……う、ぁ!」
 好きに腰を使われて、締められたままのコルセットで息が詰まった。無意識に開いたままになった口から唾液と掠れた声だけが漏れる。
「あ、ぁ……ルキ、ノ」
 慣れきった相手の身体に無理を強いられるのは、圧迫感はあるのに痛みがなく、ただねっとりと熱を帯びた粘膜が擦られる度に、達しそうで掴みきれない快楽が行き来して、じくじくと思考がキャパオーバーの熱に焼かれ、もっとと無様に強請りそうになった。
「も、っ…――ン、っう……ッひぁ」
 崩れかけた身体を壁に肘をついて無理矢理支えると、華奢なレースのガーターベルトで飾られた情けない足の間、薄いレースに隠れきっていない股間から先に出した精液で濁った粘液がポタポタと落ちていくのが見えた。ひどい有様だ。何を興奮してるんだこいつは。もっとも、俺もだが。
 冷静になりかけた頭が、尻を再び平手で叩かれてまた引きずり落とされる。反射的に閉じてしまった目尻に涙が浮くのが分かった。
「イッ――は、…あ、アぁ……っ」
 膝が震え、どうやって立っているかも分からないまま再び射精してしまう。二度、三度とヒクつく陰茎が制御出来ない精液を吐くのに、俺はひきつけのように身体が震えるのだけ自覚した。
「は、っ――す、げ」
 うっとりとした声が降って、尻の中でルキーノ自身が膨れる。腰をぴったりと押し付けられ、奥の方にに熱をぶちまけられる。
「でて、る……ひ、ぅ…――あ」
 ルキーノの熱を持った粘液が隙間なく中を満たしていく感覚に、俺は射精しないまま達していた。


*


 部屋を小さく仕切るカーテンの向こう側から、ルキーノはドレスの裾を見事に操りながら現れた。もっとも、表情はむっつりとしたものだったが。
 思い出したくもないほどにアレがソレしたので(具体的にダウンするまでセックスに付き合わされた)ルキーノのフィッティングは日を改められて、流石に無体の限りをつくした男はそれなりに反省でもしていたのか、大人しく俺の用意したドレスに袖を通していた。
 無意味なところで義理堅いのはこんな状況でも同じらしい。そういうところは可愛い男だと思っていたが、言うと不機嫌になるのでそういう顔を見たい時以外は黙っていた。
「地味だな」
 レースをふんだんに使ったドレスは、決して“地味”と言えるものではなかったが、派手好みのルキーノから見ればシンプルなのだろう。花嫁衣装なのだから、これくらい控えめの方が俺は好みだった。
「お前自身が派手だからな。ドレスはこれくらいでいいのさ」
 人の目を引く淡いピンクブロンドには、憎らしく思えてくるほどよく似合っている。それだけで俺の見立ても間違いではないと思う。
「に、してもだ」
 それでもルキーノの肩を見ると、自分の表情が意識せずとも曇っていくのが分かる。
「あ?」
「足腰は隠れるが、どうしても太いな……」
 ガタイがいいのは仕方がない。多少はベールで誤魔化されてもいる気がするが、所詮焼け石に水としか言い様がない光景に不満を覚えると、ルキーノは不本意そうに舌打ちをした。
「なんだそのツラは」
「少しでも期待した俺が馬鹿だったなあ、と」
 俺の顔をまじまじと見た男はため息を一つ吐くと、俺が用意しておいた全身鏡に向き直る。
「カヴォロ。大人しく着てやっただけでもありがたいと思え」
 丁重に付けてやったベールに無造作に手をやったルキーノを見ながら、わざとらしくゆっくりと言葉を発した。
「いや、十代の頃はあんなに線が細かったんだ。面影くらいは見れるかと思ったんだが」
 ルキーノが必死で隠しているつもりの過去をポーカーの手札を表にするように口にすると、凍りついたように男の手が止まった。
「おま……え」
 再び振り返ったルキーノの顔は、困惑と恥とかそういう感情が織り交ぜられていて、紅潮している頬にキスをしてやりたくなる。
「フ、フハハ。いいな、処女の顔だ」
 想像よりそそる表情に、油断している男の左手に手錠をかけて引き寄せた。
「おま、何用意してやがる!」
「そりゃ、俺がやられっぱなしだと思ってるのか?」
 仕返しされないと思ってないわけでもないだろうに。ご丁寧にプレイに付き合うルキーノを見ながら気をよくし、開きっぱなしだったカーテンのレールに手錠を引っ掛け、空いたままの右手にも鍵を掛ける。
「ああ、いいな。花嫁に無粋な手錠。よく似合う」
「趣旨が変わってんぞクソメガネ!」
 恐らく壊す勢いで腕を動かしたルキーノは、派手な金属音を立てたものの軋みもしない、思わぬカーテンレールの強度に面を食らったらしい。最初からそうすると決めて用意しているのだが、綺麗に罠に躓く男が愛しくなる。
「そのクソメガネに犯されるんだよ、お前は」
「カッツォ! 外しやがれ!」
 それでも律儀に暴れるルキーノを、あえて姿見で観察していた俺はくすくすと笑いながらまた男の手首に触れる。
「不満か? ああ、じゃあこれでどうだ?」
 華奢なレースで作られたベルトを手首に締めてやると、手錠の金属はレールに繋がっている場所以外は見えなくなった。
「何も改善されてねえ!」
 にゃーにゃー吠えるルキーノに目を細めながら、やれやれと頬の傷を撫でる。
「本当に、お前は下に回るときは律儀に嫌がるな」
「……前々から言おうと思ってたんだが、本心からそっちはお断りなんだよ」
 拘束されてる癖に、普段通り尊大な態度で俺を顔を睨みつける男に満足して、崩れかけたベールを整えて微笑む。
「初耳だ」
「聞こうとしねえだけだろ」
 今にも唾を吐きかけてきそうな男のドレスの裾をたくし上げながら、白いガーターストッキングの足を掴み、膝裏にベルトをかけてこっちもカーテンレールに吊るしてやった。
「次から次に手際がいいな……」
 片足で不格好に立っている男の太腿を撫でながら笑う。
「まあ、素直にさせるのは得意だからな。仕事柄ね?」
 ルキーノがはっきりと怯えを見せたので、俺はそれだけで勃起しそうになった。
「東洋人は未来に生きてるよなあ」
 傍らのテーブルの上、衣装と紛れて置いたままだった葉巻が収まっているような木箱を開くと、ルキーノは中身に察しがついたのかガチャリとレールを揺らした。
「まあ、お前のシマのオンナも使うこともあるだろうな」
 薬の匂いの濃い、グロテスクな色をしたロリポップのような小さな棒を取り出すと、ルキーノはもう一度力任せに手首を引き、体勢を崩しかけた。
「あまり騒ぐな。本部の警備をしているのは大体お前の部下だぞ?」
 そう嘯きながら、まあDSPの衣裳室に当てられているこの部屋は人払いがしてあったが。
 ぐっと言葉を飲んだルキーノを見て俺は満足し、セックスに効果のある薬が塗布してある棒を齧った。チャイナから仕入れられたという、下の粘膜に使えば女も男も例外なく掘り返されたくなるという触れ込みだ。
「倍返し、とまではいかなくても、俺にもお前を楽しむ権利はあるだろ?」
「倍で済んでない気がするんだが……?」
 力なく笑う男に、首を横に振る。
「この部屋で出来ることなんてたかが知れてるだろ?」
 言いながら、ルキーノはきちんと身につけていたドレスと同じく真っ白なシルクの下着をずらしてやる。まだ、ルキーノのペニスは萎えたままだ。
「どういう計算して……、ッ」
 片足を吊るされ、閉じることの出来ない場所を背後から抱いて今しがた舐め溶かして緩んだ棒でたどる。片手で尻を掴んで開いてやると、耳元で悔しそうな呻きが聞こえた。
「さっき言っただろう? 素直になれば和姦と同じだ」
「っぅ――、く、そ……」
 ゆっくりとまだ唾液で溶けた薬の滑りだけで浅い場所をくちくちと虐めると、吊るされた身体を半ば俺に預けている男が歯を食いしばる。
 何度か抜き差しをすると、思ったより早くルキーノの身体は反応した。
「ベ、ルナルド……」
 嫌そうに頭を振った男は、頼むから、とか細く言葉を続ける。
 聞かない振りをして挿入しているものの角度を変え、肉壁を抉るように引くと、ルキーノはびくびくと背筋を震わせた。
「いや、だ……ベルナルド、――これ、は」
 薬の類に多少の耐性がるものと勝手に思っていたが、レールに引っかかった手錠がカチカチと音を立てているのに、逆なのかと察しがついた。それとも、薬の系統が違いすぎるが故か。
「らしくないな。弱すぎないか?」
 浅くなぶっていた薬を、怯えるルキーノを無視してさらに奥に進めると、耐え切れなかったのか、押し殺した悲鳴が濡れた唇から漏れた。
「く、ぅ……も、頼む―から……あつ、い」
 ベール越しに見た赤い目は、今にも泣き出しそうな色をしている。
 育ちきってドレスのふわふわの裾が引っかかった状態になっているペニスは、透明な粘液で先を濡らしていた。
「意外な弱点だな」
 小さく笑い声を漏らすと、ルキーノは必死で否定する。
「ちが、っ、こんなのは、嫌だ……!」
 往生際悪くルキーノは俺の支えている腕から逃れようと身体を揺するものだから、黙らせるためにずるずると性急に薬を引き抜き、同じ場所までまた差し入れる。ルキーノが喉を晒すのを見て、うなじにキスをした。
「抜け、よ……ぬいてくれ、ふぁっ…、ぅうう」
 やはり、可愛い男だ。震えてるルキーノの中身を虐めるようにぐるりと薬を回すと、口汚く俺を罵ろうとした声が上ずる。
 このまま延々虐めてやりたい気持ちもあったが、先に俺の方が限界だった。
 引き抜いた棒を床に転がすとルキーノは安堵しかけたが、染み込んだ薬は残ったままだ。落ち着きを戻しかけたルキーノは、俺に背中を完全に預けて呼吸を乱したままだ。
 何も言わない男の首を甘噛みしながら尻を揉んでやると、ルキーノは滅多に聞けない類の声が上がった。
「ひ、ッぁ、ア――、」
 焦れて腰を揺する男の耳に、毒を流し込む。
「“素直”になったらどうだ?」
 ひくりとルキーノの喉が動くのを確認して、ひっそりとほくそ笑んだ。
「なに、言葉にしろとまで言わない。なあ……俺も」
 唾液を零している口元を舐めて言うと、ルキーノはとろりと溶けた目のまま、こくりと頷いた。
「――いい子だ」
 スラックスを開け、蕩けて物欲しそうにヒクついている後孔に自分のものを押し当てる。
「ベル、ナ……っ、ァ――く」
 先を飲み込ませた時点で、がしゃりと拘束された手が暴れたので、浮いたままの腿に腕を通し足をさらに開いた。
「色男がこんな格好で犯されるのを見られるのは、どんな気分だ?」
 目元にまたキスをしてやりながら、ちらりと置いたままだった鏡に視線をやると、ルキーノはカッと顔を赤らめる。
「――っ、このっ……、……ッ、アぁ」
 暴れかけたルキーノは、半分飲み込ませたペニスを揺らすだけで大人しくなった。
「も、いや……だ、っんぅ…ベル、」
 鏡に映った自分の姿から顔を背けて震えている男は、俺が目にした幼いルキーノの写真の面影があった。ルッキーニ、と呼ばれていた頃の。ドレスを身の纏った厳つい男が、余りにも可愛い。
「――……あ、ぁ…じらす、なあ…、おく、あつ……い、うう」
 縋るような赤く熟れた視線に、殆ど忘れていた最初に寝た夜を思い出す。
「イイ、から……も……」
 そのまま不器用に唇にキスを押し付けてきた男の腰を捕まえて、ドレスが使い物にならなくなるまで、レイプした。


*




 ルキーノと俺で、ラグが農園で私室として使っている部屋にいた。
 結局、俺たちは揃いの白いタキシードを着て、ラグが養豚場を片付けただけの場所でジャンの前でままごとのような結婚をすることになった。
「帰りたい……」
「死にたいじゃなくなっただけ、進歩だな」
 ぼやいた俺の顔を覗き込んだルキーノは、アップにしてる俺の髪を撫で付け「いい男だ」と呟いた。
「お前は……いいのか。こんな」
 涼しい顔でネクタイの位置を直している男に、気になって口にしていなかった疑問を投げかけてみる。
「今更気を使うな。後悔は、もう十分だ」
 表向きは、初婚の男の顔をしていたルキーノは、やはり小さな痛みを表情に乗せた。
「……いつだって、こぼしてからその中身の価値を知るとは思うけどな。何度、その痛みを味わっても」
 生きた証は、もはや身を置いている組織自身に変わっていた気がした俺は、遊びや冗談でもこんな未来を想像してはいなかった。本当には、深い意味などこの行為にはないのだろうが。
 この“マリッジブルー”も、ただの気のせいなのだろう。
「死にたい……」
 やっぱり胸に湧いた言葉を呟くと、ルキーノはため息を吐いた。
「馬鹿は死なないと治らないぞ」
 言われた言葉に心底納得して、頷く。頷いたら、ルキーノの股間が視界に入ったので、じっとそこを見つめたままぼやいた。
「何度もこいつに殺されてる」
「…………むしろ悪化してるな」
 おっさんになってるぞ、とルキーノが言ったので、腹を一度殴った。びくともしなかったが。
「ジャンからも逃げるか?」
 ルキーノに問いかけられて、数秒考えてから否定に首を振った。
「行ける場所まで行って後悔するのなら、それまでの人生だったんだろう。それも悪くない気がしてきた」
「相変わらず、諦めが早いな」
 呆れたのかなんなのか、遠い目をしたルキーノは、俺の隣に座って今更のように「似合ってる」と呟く。俺よりよっぽどに似合うタキシード姿の男に苦笑して、ああ、と頷いた。
「俺はもう、ブチあたる出来事自体に抗って生きれるほど若くもないからな」
 目を細めてそう言うと、ほんの隣から舌打ちが耳に届く。
「そのツラだけは、気に入らない」
 そう言いながらも、ルキーノは笑っていた。
「知ってるよ。それでも、俺が嘘を吐いてお前の望み通りの言葉を口にしたとしても、お前は気に食わないだろう?」
「そこも諦めてるのか」
「善処はするよ」
 笑っているのではない。きっと俺に呆れているのだ。ああ――きっと俺はこの男に、いまさらなのだが、愛されているのだと思った。真似事の結婚を交わしてもいいと思える程度には。
 俺たちには神にも等しい男の前で誓うのだ。なんだ、と俺はすとんと合点がいった。
「それを悪いと思う程度には、愛しているよ」
 セフレでないと言い訳ではなく、元からそうだったような気がしてきた。目を見てそれを言うと、ルキーノは想定外だったのか黙り込んだ。
「フ、フフ……意外とお前も安いな」
 安易な告白に沈黙で答えた男を笑うと、ルキーノは白い手袋のまま俺の手首を掴んだ。
「違う。俺は……」
 酷く真剣な目を、俺は以前に見たことがあった。
「ベルナルド。お前が思うよりもっと――」
 俺はルキーノが言うよりもはやく、唇を奪う。
「…………聞けよ」
 触れていた唇が離れ、至近距離でルキーノは言わせろと願う。
 もちろん、俺だって聞きたかった。
「ドルチェは後に取っておくタイプなんだ。先に、な……?」
 微笑んで唇を強請ると、呆れた表情でため息を吐かれて、あんたは甘いものしか食わない癖に、と恋人は砂糖菓子のようなキスをくれた。