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人でなしの恋

 同僚に対するただの好意が、恋だのなんだのの感情に育ったのは何故だっただろうかと、寝入っているルキーノの髪を撫でながら考えた。
 ジャンへの憧れを通り越した羨望を、そういった生々しいものに転ばないように大切にしすぎた結果な気もするし、時間が成した情だけで辛うじてつなぎ止めていた関係を見限られた時、それなりに尊敬出来て楽な相手を無意識に選んだような気もした。つまり、はっきりとは自分でも分からない。
 それでも認めてしまえば、恋愛に確固たる理由を求める方が女々しいように思えたので、自分は納得した。
 転んで当たった先が、たまたまあいつだった。
 年を喰った分、面倒臭さからくる効率化で、それでいいと俺は結論づけた。
 所詮脳の生み出した感情自体、電気信号以上の意味を求めようとするのなら、胡散臭いまやかしには違いない。などとイタリア系らしからぬことを思ってもみる。
 まあ、とにかく――嫌われてはいないとは分かっていた。多少の打算を持って相手の好奇心を利用して手を出したら、驚くほどあっけなく手には入った。
 そして、至る現在。
 日常になってしまった行為を辿り、ルキーノを抱いた。わざわざ、俺が無理強いをしているというお膳立てをしてやって。これも、いつもの事だ。
 失ったことのあるものに再び手を差し伸べる、という恐怖に打ち勝つのは、難しい。こういう、奪われることに慣れていなかった手合いには尚更だろう。だから言い訳を作ってやって、手を出した。
 この男はもう誰も愛さないし、愛せないと思っているのかもしれない。それすら――いや、それが愛しいと言えば壊滅的だろうか。
 根っからの人好きが、いくら恐怖したところで他人に触れたいという渇望からは逃れられないのを知っていて、自分の手元に引きずり落とした。
「そこは同じだ、なんて言ったらお前は笑うか?」
 微かな寝息を立てるルキーノの髪を撫でながら、笑っていたのは自分の方だった。
 きっと例外なく俺も、ルキーノには愛されない。
 俺の愛もまた、自己満足でしかない。相手の都合も感情も、微塵も考慮していなく、自分の未来を残せる道がないのなら、側に置いておきたいだけで。
 それは偶像を愛でる、ピュグマリオンと大差がない。ならばどうして相手から見返りを求めようという気になるだろうか。
 だから、か――。
 転がり落ちることの容易さに笑うしかない。
 踏みとどまる気はないのだから救いもない。
「それでもきっと、俺はお前を愛しているのには違いないんだよ、ルキーノ」
 本人に伝えることはないだろう言葉を吐いて、彼の頬の傷をなぞった。