Novel

TOP > SS > LUCKY DOG1 > Luchino x Bernardo > まちがいさがし

サイドメニュー

Menu

まちがいさがし

「どうしてあんたは、そんな目をしている」
 と、ルキーノはよく俺の顔を覗き込んで言う。
 尊大、傲慢、横柄を絵に描いたような男にとって、昔から俺は気に障る人間だったらしい。
 出会った頃から、こいつは俺に何か言いたそうな顔をしていた。
 酔った勢いで、一歩だか二歩だか、とにかく縮まった距離で足を開くようになって、ルキーノは正直に俺にそれを言うようになった。
「その目が気に食わない」と。
 あの頃、丁度組織のゴタゴタが収束して、手の回さなければならない範囲をあらかた片付けた。新たなカポのお披露目も滞りなく済んで、俺の肩の荷が下りたところで、ルキーノは俺を労うつもりだったのだろう。パーティではなく、サシで飲みの誘われた。
 ルキーノが手配した極上の店と文句のつけようもない酒、目の前には気の置けないファミーリア……まあ、見目も麗しい男を独り占めにして俺は飲み過ぎたのだと思う。
 俺はきっと半端に弱音を吐いて、ルキーノの半端な庇護欲を刺激した。
 さぞかし、俺がか弱く見えたのだろう。オンナじゃあるまいし。
 したたか酔った俺を介抱の延長のように抱きながら、「どうしてそんな目を」と来た。
「どうして」なんて知るか。俺の卑屈は昔からで、どうしようもない。お前の傲慢不遜が性質なのと同じのものだ。
「どうしてエメラルドの都から凱旋しても、お前は臆病なライオンのままなのか」と問えば傷つく癖に。


*


「考え事か」
 俺の太腿に唇をつけて、赤い花を散らしていた男が、言葉と共に刺々しい視線を投げよこしてくる。
「ああ、お前との未来について」
 赤毛に手を伸ばして猫にするように撫でると、本物の猫のように目が細められる。
「なんだ、別れたいって?」
「ただのセフレに別れるもへったくれもないだろう」
「あんた、まだ分からないのか」
 ルキーノは不機嫌さを欠片も隠さずに言って、俺の身体を折り曲げる。
「愛してるとでも言うつもりか?」
 呆れをわざと滲ませて言うと、舌打ちが降った。ベッドサイドにあった瓶が俺の股間でひっくり返されて、中の冷えた香油がペニスや尻の穴を越えて胸や背中まで濡らす。
「愛されたい訳でもない癖に」
 当然のことを口にした男はそれ以上の準備もしないまま、半端に起ち上がった、それでも普通の男よりはデカいそれを俺の尻に捩じ込んでくる。
「っ、た……やさしく、しろよ」
 心にもないことを口にすると、やはり鼻で笑われた。そうやって扱われるほうが、よっぽど性に合っている。
 まだ育ち切っていないルキーノのペニスの先が、俺の身体を割ってぐちゅりと音を立てる。
 腰を無理矢理上げられた状態で割り開かれるのは、レイプに似ていた。痛みは殆どなく、触れる手が優しくても。
 色っぽく眉根を寄せるルキーノの顔は、セックスのさなかでも殉教者のようだった。
 俺ではない何かを見て、もう居ない誰かを思い出しているのは容易に想像出来るので、俺はこいつのように、どうしてなどとは聞かない。聞いてどうにかなるものでもないし、ましてや俺を見ろと言いたいわけでもなかった。
 懺悔に他人を利用しているのは同じだったので、言い訳する理由が俺には分からない。
「こっちに集中しろよ。こんな時にも、あんたはすぐ考え事だ」
 いつの間にか全部を咥え込んだ場所を腰ごと揺すられ、息を飲む。じわじわと背骨を登る緩い快楽に笑みを浮かべて、俺は自分の半端に芯をもったペニスに指を滑らせた。
「だったら、俺が考える暇もないくらいに犯せばいいだろう」
 自分のを扱くと、ぶちまけられた油の滑りが気持ちいい。意識して尻で大分デカくなったルキーノのをきゅうきゅうしめると、また舌打ちがあった。
「どうして、あんたには伝わらないんだろうな」
 腰を抱きなおされ、奥が抉られて、一瞬、頭が白く塗りつぶされかかる。
「はっ、何を理解しろって言うんだ。分かって、何か変わるのか?」
 本能に邪魔されて上手く回らなくなる思考で、どうにかルキーノを煽った。男とのセックスで優しくされるなんて、冗談じゃない。
「変わりたくないのは、あんただけだ。もう黙れ」
 情緒のなかったセックスは、ルキーノの言葉で終わらさせられた。
 ゆっくり短く引き抜かれたペニスが、俺に形を教え込むように何度も深い場所を抉ってくる。
「ふ、っう…もっと、しろよ」
 早く終わらせたくて前を弄っていた手を早めると、手首を捕まえられて頭の上に押さえつけられる。
「一人でよくなってんな。ケツだけでイける癖に」
 男としてイイところを奪われると、はっきりと快楽を刻む浅い場所を犯すのではなく、まるで種付するような腰の動きにぞくぞくと肌が粟立つ。
 揺すられるたびに、俺のペニスが透明な涎を垂らしながら自分の腹の上で情けなく踊っているのが、どうしようもなく快感を呼ぶ。
 娼婦みたいに脚をルキーノの腰に絡めると、男は今にも泣きそうな顔をした。
「……どうして」
 ルキーノがわざわざ俺の唇を吸いながら言う。性質のまるで合わない男と唾液を絡ませて、マスをかくより、尻を掘られるより気持ちいいなんて、どうかしている。今すぐ舌を噛み切ってやろうかと思った。
「俺の目に映ってるのは、お前だろ。このザマなのは、本当に俺の話か」
 代わりに吐き捨てると、傷つきやすい赤い目に映る俺の顔は、早く死にたがっているように見える。
 やはり、ルキーノが助けたがっているのは、俺ではないように思えた。