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とりとめもない

 向かいに座っている男は、慣れた動作で煙草に火をつけた。
 高級煙草の濃厚な香りがこちらにも届く。
 彼の前に置かれていた深皿にはまだ半分くらい、トマトと絡んだカッペリーニが残っていた。
 お約束のように「相変わらず食わないな」と言うが、ベルナルドは何も答えない。それすら様式美と化していたので、俺は了承も取らずにその皿を引き寄せ自分のフォークを突っ込んだ。
 俺が皿の中身をやっつけている間、彼は行儀悪く、くわえ煙草に片手で俺の空いていたグラスにワインを注ぎ、仕事の話をしだした。
 甘味の強いトマトとビネガーソースを味わいつつ、話は半ば聞き流してベルナルドの仕草をずっと見ていた。
 俺の好きなその男の指先は、仕草ひとつで、人を殺し、組織の血液を稼ぎ、人を魅了する。縋ることだけは、酷く下手くそだったが。
 ベルナルドの声が途切れたところを見計らって、適当な相槌を打った。
 会話はそれで終わり、皿も空になる。
 ドルチェは、目の前にあった。